筒の中に立体が「在る」──メガネなしで、どこから見ても立体に見える円筒ディスプレイ「I/F[around]」
ProtoPedia の作品「円筒形の立体視装置:I/F[around]」を2人のMCが初心者目線で紹介。黒い筒をのぞくと、中に物が本当に在るように見える裸眼立体ディスプレイです。AIの「顔」をもっとワクワクするものにしたいという作者の動機、人が奥行きを感じる目の仕組み、回転するすき間の覆いとLEDで約1度刻みに絵を出し分けるトリック、FPGAとUnityの構成、博物館の解説役という使い道まで。
チャプター
0:00オープニング0:20筒の中に「在る」立体1:23人の知識はデジタルにできる3:29両目の絵のずれ=両眼視差4:56①曲げたLEDの電光掲示板8:00前作「あなたミュージアム」の続き9:38一歩目:指1本で両目のずれを体感10:51エンディング
文字起こし(92行)
- BANNO
- ゆっくりばんのです。
- HIGEDARUMA
- ゆっくりひげだるまです。
- BANNO
- 今日もプロトペディアから、とびきり不思議な作品を紹介していきますよ。
- HIGEDARUMA
- 今日紹介するのは、円筒形の立体視装置:I/F[around]。
- BANNO
- 写真を見ると、黒い筒の中に、白く光る塊が浮かんでいますね。
- HIGEDARUMA
- はい。この筒をのぞくと、中に物が本当に在るように見えるんです。しかもメガネもゴーグルも要りません。
- BANNO
- 映画館の3Dだと、専用のメガネをかけますもんね。
- HIGEDARUMA
- そうなんです。さらに、正面からのぞけば物の正面、横からのぞけば物の横の姿が見えるんですよ。
- BANNO
- えっ、回り込むと、ちゃんと横顔になるんですか。
- HIGEDARUMA
- なります。しかも筒のまわりを何人で囲んでも、全員がそれぞれの位置から正しい立体を見られるんです。
- BANNO
- どうして平らな光で、そんなことができるのか。今日はその謎を解いていきましょう。
- BANNO
- まず気になるのが、作者さんはなぜこれを作ろうと思ったのか、なんですよね。
- HIGEDARUMA
- きっかけは、知り合いから送られてきた1本のリンクだったそうです。
- HIGEDARUMA
- その人は、ChatGPTに自分の同人誌を読み込ませて、その知識で質問に答えさせていたんです。
- BANNO
- 自分の本を読んだAIが、自分の代わりに答えてくれるんですか。
- HIGEDARUMA
- はい。返ってきた答えが「あー確かに言いそう」という内容で。作者は、人の知識はデジタルにできる、と感じたそうです。
- HIGEDARUMA
- ちょうど同じころ、ロボット研究で知られる石黒先生の、アバターの話も聞いていたそうなんです。
- BANNO
- アバターというのは、自分の代わりに画面の中で動く分身のキャラクターですよね。
- HIGEDARUMA
- そうです。AIの知識と分身を組み合わせれば、時間や場所に縛られずに知識を伝えられる。作者は、SFが今そこに来ている、と書いています。
- BANNO
- わくわくしますね。でも、AIと話すなら、パソコンやスマホの画面で十分な気もします。
- HIGEDARUMA
- 作者もそこで悩んだんです。文字だけのやり取りは、あまりに無機質すぎる。
- HIGEDARUMA
- ロボットにすると、見た目が固定なので、知識ごとに中の人を切り替えにくい。
- BANNO
- じゃあ、液晶画面にキャラクターを映すのは、どうなんでしょう。
- HIGEDARUMA
- そこで作者のひと言が、これです。液晶画面…もっとワクワクしたいやん。
- BANNO
- あはは、本音ですね。でも、その気持ちはすごく分かります。
- HIGEDARUMA
- それで、そこに在るように見える立体表示を作ろう、と決めたそうです。
- BANNO
- 作品名のI/Fも、そこにつながっているんですか。
- HIGEDARUMA
- はい。I/Fはインターフェースの略で、人と機械をつなぐ窓口という意味なんです。aroundは、ぐるりと囲む、ですね。
- BANNO
- AIとわたしたちの間に立つ、ぐるっと見られる窓口。名前にちゃんと意味があるんですね。
- BANNO
- では本題です。平らに光っているだけなのに、どうして奥行きを感じるんでしょうか。
- HIGEDARUMA
- まず、わたしたちの目の仕組みからです。見ているみなさんも一緒に、人差し指を1本、顔の前に立ててみてください。
- BANNO
- はい、立てました。
- HIGEDARUMA
- 右目だけ、左目だけ、と交互につぶしてみてください。指が左右にずれて見えませんか。
- BANNO
- やってみました。あっ、本当だ。指がぴょんぴょん跳ねて見えます。
- HIGEDARUMA
- 右目と左目は離れているので、同じ物でも少しずつ違う絵を見ているんです。脳はそのずれから、奥行きを計算しているんですよ。
- HIGEDARUMA
- もう1つ、頭を左右に動かすと、近くの物ほど大きく動いて見えますよね。これも奥行きの手がかりなんです。
- BANNO
- つまり、見る場所によって違う絵が目に届けば、脳が勝手に立体だと思ってくれるんですね。
- HIGEDARUMA
- その通りです。ただ、ふつうの画面には弱点があって。
- HIGEDARUMA
- テレビは、どこから見ても同じ絵しか出せません。横から見ても、正面の絵が斜めに見えるだけなんです。
- BANNO
- たしかに。テレビの裏に回り込んでも、俳優さんの後ろ姿は見えませんもんね。
- HIGEDARUMA
- そう。だからこの装置は、見る向きごとに別の絵を届ける、という難題に挑んでいるんです。
- BANNO
- 見る向きごとに別の絵。いったい、どうやっているんですか。
- HIGEDARUMA
- 使っている部品は、大きく2つです。1つ目は、筒の内側に曲げて並べた、LEDの電光掲示板。
- HIGEDARUMA
- 2つ目は、その外側をぐるりと覆う、細いすき間がたくさん空いた覆いです。パララックスバリアと呼ばれます。
- BANNO
- すき間の空いた覆い……ブラインドのようなものでしょうか。
- HIGEDARUMA
- 近いです。すき間がとても細いので、ある方向からのぞくと、LEDが1列分しか見えないんです。
- HIGEDARUMA
- 作品ページによると、すき間を通った光が見える範囲は、約1度の幅に絞られます。
- BANNO
- 1度だけ。ほんの少し横にずれたら、もう見えないんですね。
- HIGEDARUMA
- そうなんです。そしてこの覆いが、くるくる回るんですよ。
- HIGEDARUMA
- 覆いが回ると、すき間の位置が変わって、どのLEDの列がどの方向から見えるかが入れ替わるんです。
- BANNO
- あっ、じゃあ、すき間がこっちを向いた瞬間だけ、こっち向けの絵を光らせればいい。
- HIGEDARUMA
- まさにそれです。約1度刻みで、角度ごとに違う絵を光らせ分けているんです。
- HIGEDARUMA
- デモ動画によると、絵が見える範囲は筒の前側の180度。すべての向きに同時に絵を出すので、何人で囲んでも全員に正しい絵が届くんです。
- BANNO
- 回転がすごく速いから、わたしたちの目には1つの立体に見える、ということですね。
- HIGEDARUMA
- はい。ここで全体の構成図を見てみましょう。
- HIGEDARUMA
- まずパソコンで、ゲームエンジンのUnityを使って、角度ごとの絵を作ります。それをHDMIのケーブルで送ります。
- BANNO
- テレビとゲーム機をつなぐ、あのケーブルですね。
- HIGEDARUMA
- そうです。受け取る側は、FPGAという、中の回路を自分で書き換えられるチップなんです。
- BANNO
- わざわざ、そんな特別なチップを使うんですか。
- HIGEDARUMA
- はい。ちらつかせないためには、絵の切り替えをものすごく速くしないといけません。角度ごとの絵をためておくメモリもたくさん要るんです。
- HIGEDARUMA
- さらにパソコンで描いた映像を、その場で受け取りたい。この3つをこなすために、速い処理が得意なFPGAを選んだそうです。
- BANNO
- 覆いを回すモーターや、回転の位置を測るセンサーも、そのチップから動かしているんですね。
- HIGEDARUMA
- はい。そして作者はこう書いています。中の人は機械屋さんなので、この構成が良いのかいまだによくわかってないです。
- BANNO
- えっ、ここまで作って、まだ手探りなんですか。
- HIGEDARUMA
- そうなんです。本職は機械の人が、電子回路にも挑んで、ここまで形にした。個人開発者として、すごく勇気をもらえる話なんですよ。
- BANNO
- キャラクターや声はどうしているんでしょう。
- HIGEDARUMA
- 3Dのキャラクターは、VRoid Studioで作れます。デモ動画のナレーションは、音声合成ソフトのVOICEPEAKです。
- BANNO
- これ、実際にはどんな場所で使えそうですか。
- HIGEDARUMA
- 作者が考えているのは、博物館の展示解説なんです。
- HIGEDARUMA
- 前の年に作った、立体表示で解説する博物館、あなたミュージアムの続きとして設計したそうです。
- BANNO
- 展示の横に筒があって、中のキャラクターが説明してくれる。子どもは絶対のぞき込みますね。
- HIGEDARUMA
- しかも何人で囲んでも立体に見えるので、展示会場にぴったりなんです。
- BANNO
- AIがふだんの質問に答えて、深いところは人が手伝う、という未来ですね。
- HIGEDARUMA
- ただ、正直に言うと、今は用意したアニメーションを流している段階です。
- HIGEDARUMA
- 作者も、表面ができたにすぎない、と書いていて、次回「RAGとかAIとかを頑張る」と予告しています。
- BANNO
- RAG、というのは何でしょう。
- HIGEDARUMA
- AIに資料を読ませて、その中身をもとに答えさせる仕組みです。さっきの同人誌の話と同じ発想ですね。
- BANNO
- なるほど。最初のきっかけと、ちゃんとつながっているんですね。続きが楽しみです。
- BANNO
- そしてこの作品、ヒーローズ・リーグ2025で、2つの賞を受賞しています。
- HIGEDARUMA
- オンラインヒーローと、ノラ・メディアアート賞ですね。オンラインヒーローは、たくさんの参加者の支持で選ばれる賞なんです。
- BANNO
- 主催のMAさんの講評は、作者の「もっとワクワクしたいやん」を受けて、「めちゃくちゃワクワクしました!」でした。
- HIGEDARUMA
- 作者の本音が、ちゃんと見た人に届いたんですね。
- BANNO
- 作ったのは、OUCHI Laboratoryさん。関東を中心に、メイカーイベントで実機を展示しているそうです。
- HIGEDARUMA
- 作品ページのコメントにも、実機見たい、という声が寄せられていました。見かけたら、ぜひのぞいてみてください。
- BANNO
- では、今日できる最小の一歩です。
- HIGEDARUMA
- まずは、さっきの指1本の実験を、もう一度やってみてください。目が奥行きを作っているのを、10秒で体感できます。
- HIGEDARUMA
- もう一歩進むなら、厚紙に細いすき間を1本切って、のぞく角度を変えてみてください。
- HIGEDARUMA
- すき間の後ろに色の違う紙を並べておくと、角度によって見える色が変わります。これが、この装置の仕組みの第一歩なんです。
- BANNO
- 紙とはさみだけで、仕組みの入り口に立てるんですね。それなら今日すぐできそうです。
- BANNO
- もっとワクワクしたい、という気持ちから始まったものづくり。わたしたちも見習いたいですね。
- BANNO
- さて、今日紹介したのは、筒の中に立体が在るように見える、円筒形の立体視装置:I/F[around]でした。
- HIGEDARUMA
- 次回の作品でも、ゆっくりしていってね。
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