掃除機に付けたiPhoneが「かけた床」を塗っていく|自閉症の男の子が一人で掃除できた、ARの取り組み
ProtoPedia の作品「掃除機をどこまでかけたかわかるAR 自閉症児・者の自立活動への活用」を2人のMCが初心者目線で紹介。普通の掃除機にiPhoneを付けると、画面の中の床が、掃除機をかけたところから色で塗られていきます。床の高さだけを使ったシンプルな仕組み、特別支援学校の授業で、ひとりでは床の約3割未満しかかけられなかった男の子が、4回の練習で一人でかけられるようになり家でも続けたこと、なぜ効いたのかという作者の仮説、そして「おもしろいからやってみた」を続けた先に待っていた人たちの話まで。
チャプター
0:00オープニング0:20かけた床が、色で見える1:18普通の掃除機に、iPhoneを付けるだけ3:13本庄特別支援学校と共同で5:29覚えておく力・次を決める力7:04全国の先生から、問い合わせ8:43エンディング
文字起こし(77行)
- BANNO
- ゆっくりばんのです。
- HIGEDARUMA
- ゆっくりひげだるまです。
- BANNO
- 今日もProtoPediaから、とびきり面白い作品を紹介していきますよ。
- HIGEDARUMA
- 今日紹介するのは、掃除機をどこまでかけたかわかるAR 自閉症児・者の自立活動への活用。
- BANNO
- 掃除機をどこまでかけたか、ですか。それ、すごく分かります。
- BANNO
- 行ったり来たりしているうちに、あれ、ここかけたっけ?ってなるんですよね。
- HIGEDARUMA
- まさにそれなんです。作者の大西拓人さんも、自分がよくかけ忘れていたそうなんですよ。
- HIGEDARUMA
- そこで2017年に作ったのが、かけた床が色で塗られていくアプリなんです。
- BANNO
- でも今日のタイトルには、自閉症児・者の自立活動、とも入っていますね。
- HIGEDARUMA
- はい。この小さなアプリが、ある男の子の「一人でできた」につながったんです。今日はそのお話です。
- BANNO
- まず、どんなふうに使うのか教えてください。
- HIGEDARUMA
- 家にある普通の掃除機の持ち手に、スマホホルダーでiPhoneを取り付けるだけなんです。
- HIGEDARUMA
- カメラが床を映していて、掃除機が通ったところから、画面の中の床に色の帯が塗られていきます。
- BANNO
- へえ、塗り絵みたいですね。塗れていないところが、まだかけていない場所なんですね。
- HIGEDARUMA
- そうなんです。これがAR、カメラに映した景色に、コンピューターの絵を重ねて見せる技術なんですよ。
- BANNO
- 専用の掃除機じゃなくていいんですね。それは助かります。
- HIGEDARUMA
- 作者いわく、iPhoneを付けるだけなので、ほとんどの一般的な掃除機で使えるそうです。
- BANNO
- でも、iPhoneはどうやって、掃除機が通った場所が分かるんですか?
- HIGEDARUMA
- 仕組みはとてもシンプルなんです。まず、iPhoneがカメラの映像から床の高さを見つけます。
- HIGEDARUMA
- この床を見つける部分は、アップルが用意しているARKitという道具がやってくれるんですよ。
- BANNO
- 床の高さが分かったら、次はどうするんですか?
- HIGEDARUMA
- その高さに、目に見えない大きな板を敷きます。そして画面のまんなかがその板とぶつかる点を追いかけるんです。
- HIGEDARUMA
- その点を、横幅の広い線でつないでいく。掃除機と一緒に動くので、通った跡が帯になるわけです。
- BANNO
- なるほど。床の高ささえ分かれば、あとは線を引くだけなんですね。
- HIGEDARUMA
- はい。作者も、シンプルな実装で済むように床の高さだけを使った、と書いています。ここが個人開発のうまいところなんですよ。
- BANNO
- 最初の版は、テレビでも紹介されたんですよね。
- HIGEDARUMA
- そうなんです。2017年にはテレビ番組で紹介されて、Mashup Awardsというコンテストでは、For Pro部門の優秀賞も取っています。
- BANNO
- そんな便利アプリが、どうして学校の授業につながったんですか?
- HIGEDARUMA
- 作者は発表のあとも、このアプリが役立つ場所をずっと探していたんです。
- HIGEDARUMA
- そして2019年、作者のほうから、埼玉県立本庄特別支援学校に声をかけて、一緒に取り組むことになりました。
- BANNO
- 授業の名前が、自立活動、でしたね。どんな授業なんでしょうか。
- HIGEDARUMA
- 障がいがあることで生まれる、生活や勉強の困りごとを、本人が乗り越えていくための授業なんです。
- HIGEDARUMA
- その授業の課題のひとつが、掃除機を自分でかけること。協力してくれたのは、当時6年生のKくんです。
- BANNO
- アプリを使う前は、Kくんはどんな様子だったんですか?
- HIGEDARUMA
- 一人で掃除機をかけると、かけるべき床の、約30%未満しかかけられなかったそうです。
- BANNO
- 約30%未満…。かけるべき床の、3分の1もかけられていなかったんですね。
- HIGEDARUMA
- なので先生が、レーザーポインターで次はここ、と指したり、床に紙のテープを貼って細かく区切ったりしていたんです。
- BANNO
- 先生がずっとそばで、手助けしていたわけですね。
- BANNO
- では、アプリを付けた掃除機を使ったら、どうなったんでしょうか。
- HIGEDARUMA
- 一人でも、掃除機を問題なくかけられるようになったんです。
- BANNO
- おお、一人でですか!
- HIGEDARUMA
- しかも、教室で4回試したら全く問題なくかけられたので、そのあとはKくんの家でもやるようになったそうです。
- BANNO
- 学校でできたことが、家でもできるようになった。これは大きいですね。
- BANNO
- 先生は、どんなふうに受け止めたんでしょうか。
- HIGEDARUMA
- 担当の小岩先生が、作品ページにこう書いています。
- HIGEDARUMA
- Kくんにとっては、一人で、全てを行えるということがとても嬉しかったようです。
- HIGEDARUMA
- 障がいのあるお子さんは、人の支援がつくことが多く、「一人でできた」の機会は少ない、とも書かれています。
- BANNO
- そうか…。いつも誰かが手伝ってくれるぶん、一人でやりきる経験は、なかなか持てないんですね。
- BANNO
- だから、掃除機を最後まで一人でかけられたことが、すごく大事なんですね。
- BANNO
- それにしても、床に色が付くだけで、どうしてそこまで変わるんでしょうか?
- HIGEDARUMA
- 作者は、仮説としてこう説明しています。キーワードは、頭の中でやっている2つの仕事なんです。
- HIGEDARUMA
- ひとつ目は、どこまでやったかを覚えておく仕事。ふたつ目は、次にどこをやるかを決める仕事です。
- BANNO
- たしかに掃除機って、その2つを頭の中でずっとやっていますね。
- HIGEDARUMA
- そうなんです。でも画面を見れば、かけた所は塗られているし、まだの所は塗られていない。
- HIGEDARUMA
- つまり、頭の中でやっていた2つの仕事を、画面が代わりに引き受けてくれる、という考え方なんです。
- BANNO
- あ、先生のテープやポインターがやっていたことを、画面がやってくれるわけですね。
- HIGEDARUMA
- まさにそれです。しかも人の手がいらない。だから、Kくんが一人でできたんです。
- BANNO
- ARというと、ゲームでキャラクターが出てくるようなものを思い浮かべていました。
- HIGEDARUMA
- 作者はそこも面白い見方をしていて、ARは今いる場所に、別の場所や架空の世界を重ねるだけじゃない、と言っているんです。
- HIGEDARUMA
- このアプリが重ねているのは、ほんの少し前の自分の動き。作者はこれを、短い時間軸のAR、と呼んでいます。
- BANNO
- さっきの自分が、床に残っていくんですね。なんだか素敵な言い方です。
- HIGEDARUMA
- 動きを測って、すぐに見せ返す。それだけで、人ができることを広げられる、と作者は考えているんです。
- BANNO
- この取り組み、まわりの反響はあったんでしょうか。
- HIGEDARUMA
- ネットで紹介されると、全国の先生から、学校に問い合わせが増えたそうなんです。
- HIGEDARUMA
- 小岩先生は、たくさんの先生が「このテクノロジーがあれば」と思っているのだと思います、と書いています。
- BANNO
- 同じことで困っている現場が、たくさんあったんですね。
- BANNO
- 私がいちばんぐっと来たのは、これがもともと、作者自身の掃除のかけ忘れから始まったことです。
- HIGEDARUMA
- 作品ページのコメントにも、2017年ごろはおもしろいからやってみた、という印象だった、とあるんです。
- HIGEDARUMA
- それから3年、アップデートしながら続けて、2020年のヒーローズ・リーグの決勝で発表しました。
- BANNO
- おもしろ半分で作ったものを、やめずに続けたら、待っていた人に届いたんですね。
- HIGEDARUMA
- はい。作者は、この領域がもっと盛り上がるきっかけになれば、と話しています。
- BANNO
- 作品ページと、学校との取り組みのページのリンクは、概要欄に置いておきますね。
- BANNO
- では、今日の一歩。毎日の中で、あれ、どこまでやったっけ?となることを、ひとつ書き出してみてください。
- HIGEDARUMA
- 洗濯物でも、薬を飲んだかでもいいんです。それを目に見えるようにできないか、考えてみましょう。
- BANNO
- 自分の小さな困りごとが、いつか誰かの「一人でできた」になるかもしれませんね。
- BANNO
- さて、今日紹介したのは、掃除機をかけた床が色で見えるAR、掃除機をどこまでかけたかわかるARでした。
- HIGEDARUMA
- 次回の作品でも、ゆっくりしていってね。
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